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大正×対称アリスは乙女ゲームの業の肯定

※対称アリスのネタバレとStarry☆Sky in Winterの桜士郎√の一部ネタバレがありますのでご注意ください。

 

 

「対アリは乙女ゲームの業の肯定だ」とよく言っている。

この言葉は、落語家・立川談志の「落語とは人間の業の肯定である」という台詞の一部をすげ替えて使っている。
私は落語に造詣がある訳では無いので、談志の用いたこの台詞をきちんと理解した上で適用した訳ではなく、字面から受ける印象のみでこの言葉を使っているということを、まずご理解いただきたい。

 

乙女ゲームの業とはなにか。

そのまま、乙女ゲーム(恋愛ゲーム)のシステム自体が業であると思っている。

乙女ゲームの攻略キャラクターは複数人で、主人公は単独である(複数主人公でも主人公の数が攻略キャラクターを上回ることはないと思う)。
その中から選んだ、あるいは決められた順番で攻略キャラクターと深い関係(主に恋愛)を結ぶことになるのが基本的な乙女ゲームの解釈で間違いないと思う。

具体的にいうと、

・攻略キャラクターにとって、主人公は一人しかいないのに、主人公は攻略キャラクターなら誰とでも関係を結ぶことが出来る。
・選択肢を間違えても、何度でもやり直すことが出来る。
・一人の攻略キャラクターとハッピーエンドを迎えたルートでは、他の攻略キャラクターとハッピーエンドになれない。

以上が、乙女ゲームの業だと思っている。
乙女ゲームではなく、また未プレイだが、ギャルゲーの「君と彼女と彼女の恋。」は上記の要素にかなり突っ込んだ作品らしい。参考までに)

私が最初に「乙女ゲーム(恋愛ゲーム)の業を指摘している」と思ったのは、「Starry☆Sky in winter」の白銀桜士郎√から。
スタスカシリーズ」は春〜冬の4シーズン出ていて、ワンシーズンにつき3人・計12人+αの攻略キャラクターがいる。
桜士郎はその+αのおまけ的な攻略キャラクターで、√解放は、冬の攻略キャラ3人のグッドエンドを見てからである。

詳細は省くが、桜士郎√でこんなシーンがある。
「君は春、夏、秋、冬の攻略キャラたちに守られてきた。それに気付かないといけない」
「君はこれから巡る季節の中で、君を待っている人がいるかもしれない」
というようなニュアンスのセリフを言い、主人公への愛を拒絶する。それに対し主人公は、「私は無意識に大切な人達を傷つけてたのかもしれない」と考えるというもの。

それはまさに、(システム的には違うが時系列的には)春〜冬の攻略キャラクター12人とのフラグを全てへし折って、桜士郎√に辿りついた主人公の持つ業(攻略キャラクターたちに対して、主人公が一人という構造)の指摘ではないだろうか。

このような乙女ゲームの持つ性質に対するメタ的な指摘のある作品は、恐らく他にも数多く存在するだろう。良かったらぜひ教えて頂きたい。


さて、ここで本題の、「対称アリスは乙女ゲームの業の肯定」に繋げていく。

「対アリ」では、攻略キャラクター7人全員に対して7人の主人公(ヒロイン)が存在する。
それぞれの世界で、それぞれの主人公と共に生きていく。
(主人公は有栖〇〇(デフォルトネーム:百合花)と固定だが、物語を進めていくうちに、彼女たちが完全な同一個体ではないとわかる)
ゲームマスターであるオリジナル・有栖〇〇の愛をマテリアルとして生成された、プレイヤー・有栖〇〇たちが、攻略キャラクターたちにその愛(=自分自身)を与える。

それは、データを分けて、様々な攻略キャラクターとのハッピーエンドを見ることの出来る乙女ゲームというシステムの業の肯定なのではないか。


また、「対アリ」の物語の構造は、乙女ゲームのシステムのメタフィクションであり、選択肢のミス=バッドエンド→ロードの流れは、物語構造に組み込まれたシステムである。
そこに、失敗してロードすることそのものに意味を持たせ、また、ハッピーエンドを目指すことを目的ともしている。

 

失敗しても何度でもやり直して(ロードして)いい。
攻略キャラクターは全員、同じ時列の異なる世界の中で、一人の主人公に愛される。

上記の要素を、「肯定」と捉えるか「皮肉」と捉えるか、それは各々の判断に任せるが、少なくとも私自身は、乙女ゲームというシステムの持つ業を可視化させ、更に
それを力技でまとめあげ、ハッピーエンドに導くことを「肯定」と捉えたい。


更に、乙女ゲームの業の肯定だけではなく、虚構(夢の世界)の肯定も含まれている。

エピローグでは虹がかかり、その虹をアリスと主人公が駆けてゆく、というもの。
アリスは「ここは夢の中だから何でもできる」と言う。

それは、虚構世界が現実世界の下位互換ではなく、ある意味で上位互換であり、肯定されるべき世界であることの表れではないだろうか。

 

乙女ゲームの業と、虚構そのものを肯定した作品が「大正×対称アリス」である。

我々は、乙女ゲームのみならず、様々な虚構の世界のキャラクターたちを愛することを、許されているのだ。

 


以上。

 

 

 

 

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Starry☆Sky~Winter Stories~

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